熱処理004 ~焼鈍(焼まなし)~

熱処理
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焼鈍とは「金属組織を柔かい組織(パーライト、フェライト、セメンタイト)に変態させる」です。
焼鈍は〇〇焼なましと言ったりして、いろいろな言い方がありますが、熱処理条件によって言い方がかわるだけで、柔かい組織に変態させることという点においては、「焼鈍」になります。
組織をリセットする焼鈍ですが、いろいろな種類があるので、用途に応じて熱処理条件が違うので、違いがあることは理解しましょう。

金属組織?柔かい組織?、、、とわからない人は
↓前回の記事でおさらい↓

熱処理001 ~金属組織を理解しよう~
熱処理は「硬くする」「柔らかくする」が主な目的で行われます。金属が硬くなったり、やわらかくなったりする物性は金属組織の状態で大きく変化します。人間の体調(状態)は悪い細胞だと体調が悪く、良い細胞だと体調が良いですよね。金属も同じで金属の状態を知るためには細胞(組織)をみればわかるんですね。金属の細胞(組織)を見るためには、金属表面を磨いて、顕微鏡で拡大すると見ることができるんです。

1.焼鈍の目的とは

材料の応力除去 組織均一

板、棒、平板、コイル、管、、、など 金属材料には様々な形状があります。しかし、もともとは溶鉱炉内の溶けた鉄にさまざまな添加物を加えた後に、インゴットと呼ばれる一定サイズの鉄の塊にしています。これを加熱して、引っ張ったり、押し出したり、型で成型したりと、その後の製法に合わせていろいろな形状にしています。このインゴットから板や棒にする工程で金属にストレスが加わります。このストレスにより金属材料内部に応力が残り、また加熱冷却を繰り返すことで組織変態や組織形状が不均一になります。この状態であるとその後に切削やプレス加工を行うと、加工精度にバラツキが生じ、加工工程に不具合が生じやすくなります。そのためストレスを受けた材料に対して焼鈍を行い、組織が均一で応力が残存していない状態にすることが重要になるのです。金属材料メーカーでは客先の用途に合わせて、焼鈍された材料を供給していることが多いですね。

2.完全焼なまし

完全焼きなましパターン

最も、オーソドックスな焼鈍がこの完全焼なましになります。この完全焼なましは組織を完全にリセットすると理解してください。前述したとおり、熱間鍛造された材料には「応力の残存」と「組織の不均一」という問題があり、この完全焼なましをするとこれら両方を解消することができます。そのため、とりあえずの焼鈍条件としてはこの完全焼なましで問題ありません。まず組織をリセットするためには組織をオーステナイトにさせ、その後、オーステナイトがマルテンサイトに変態しないようにゆっくりと冷すことで完全焼なましとなります。そのため完全焼なましの熱処理条件としては、変態点以上の800~900℃まで上昇させ、100℃/hのスピードで炉内冷却し、600℃付近のマルテンサイト化しない温度帯までに達したら、炉から取り出し、空冷させます。ただし、軸受鋼や工具鋼などの炭素量が高くマルテンサイト化しやすい金属は20~30℃/hに冷却スピードをさらに落とします。900~600℃までの冷却を20~30℃/hのスピードで冷却するため10時間以上は炉冷することになるため、コストのかかる処理になりますね。

3.応力除去焼なまし(低温焼なまし)

応力除去やきなまし

鍛造、冷間加工、溶接、などで発生した残留応力を除去することを目的とした焼なましであり、低温で保持することから低温焼なましとも言われます。完全焼なましと異なる点としては変態点以下の450~700℃の間で保持し、その後は空冷することで応力除去が期待できます。この保持温度が高ければ高い程、応力を除去することができますが、温度が高いほどマルテンサイト化するリスクも増えるため、600℃程度までは炉冷する必要があります。一般的には500~600℃で保持し、空冷することが多いようです。

4.球状化焼なまし

完全焼なましと同じ条件ですが、700~800℃で長時間保持した後、炉冷することで、セメンタイト組織を球状化させる方法です。炭素量が多いとセメンタイトも多いため、この焼鈍は工具鋼や、軸受鋼などの高炭素鋼で行われることが一般的です。この球状化をすることで、高いじん性を得ることができるため、製品仕様に大きな影響を与えます。そのため焼入後も球状化させたいことから焼入れ前処理として、球状化焼なましを行うこともあります。

球状化焼なましは以下の3つに熱処理方法があります。
・長時間加熱法

球状化焼きなまし(長時間加熱法)

・繰り返し加熱法

球状化焼きなまし(繰り返し加熱冷却法)

・等温保持徐冷法

球状化焼きなまし(等温保持徐冷法)

5.焼純(焼ならし)

焼純(焼きならし)

焼鈍は「焼なまし」ですが、焼純「焼ならし」というものがあります。条件は完全焼なましと変わらないのですが、唯一ちがうのが炉冷ではなく、空冷という点です。そのため変態点を超えるような800~900℃で保持し、その後に炉から取り出し、空冷させます。この焼純をすることで、応力除去、組織の均一化が期待でき、さらに引張強さなどの機械的性質が向上します。ですが、空冷しているためわずかながら組織は変態する上、空冷による熱処理歪みも生じます。完全焼なましは後工程を考えて行うことが多いですが、どちらかと言うと焼純はその後の加工に影響ないレベルであれば機械的性質を上げることを優先したような熱処理条件であると言えます。

6.まとめ

・焼鈍は柔らかい組織にリセットする熱処理方法である。
・完全焼なましは残留応力の除去、組織の均一化の両方が期待できる。
・応力除去焼なましは低温で応力除去を目的とした焼鈍である。
・球状化焼なましをすることで高炭素鋼のセメンタイト組織を球状化し、じん性を得ることができる。
・焼純は応力除去、組織均一化に加え、機械的性質も上げることができるが、熱処理歪が生じる。

以上です。

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